2023年2月4・5日に奈良県宇陀市で葛ソムリエ限定「山での葛根掘りツアー」を開催しました

昨年開催した「天極堂の試験栽培の畑での葛根掘り体験」の際に、「次は山で葛の根を掘ってみたい」というお声をいただき、ゲストハウス奈の音と宇陀市観光ボランティアガイドの藤本さんにご協力いただき、奈良県宇陀市での、山での葛根掘りツアーを開催することができました!
まずは藤本さんのお話を聞いてから、いよいよ山へ。

写真で見える枯れたツルの中には葛も混ざっています。枯れて葉っぱがないので見ただけではわかりませんが、夏から秋にかけて葛が生えていることを確認しておけば、どこを掘ればよいのかわかります。そうして目星をつけておいた山に登ります。葛が生えているのは山の南側の急斜面、日当たりが良い場所の葛が澱粉を多く蓄えています。
写真では伝えきれませんが、獣道もない山の中に突入していくわけで、しかも急斜面。今回もみんな笹やツルに足をとられたり、滑り落ちてしまったりと悪戦苦闘。山を登るコツは笹の根元をもつこと。木は枯れているものも多く、安易につかむと一緒に落ちてしまうこともあります。
何とか登り切った先で待っていたのは巨大なクズ。左上にちらりと見えている黒い木が葛のツルです。太いつるをたどっていき、根元を掘っていきます。

えっさかほっさか、えっさかほっさか、えっさかほっさか…
掘り続けても終わりの見えない根が続きます。
ここで先にネタばらしをしておきます。
トップバナーの画像で自慢気に掲げている葛の根ですが、私たちが一生懸命掘ったこの葛の根に、でんぷんはほぼありませんでした。
なぜならこの根はでんぷんをためる根ではなかったからです。
実は藤本さんはこの時同時進行していた自然薯を掘っていたため、葛根掘りを見ていなかったのですが、巨大な葛の根に興奮した私たちはとにかくこの長い根を掘り出そう、どこまで伸びているのだろうかと躍起になって掘っていたわけです。
しかし、葛は1つのツルからいくつかの根を伸ばしており、この根は養分を送り出すための根っこであり、でんぷんがたまった紡錘形をした根は反対側の土の中に存在しているものと思われます。
そうとは知らずがむしゃらに掘り続ける私たち。
古墳の発掘現場のように葛の根があらわになり、崖の下へ続く葛の根を追いかけてさらに下を掘り進め、掘り出した長さはなんと8メートルを超えました!

どうすればこの長さを伝えられるだろうかと、とりあえず人と葛の背比べ。私たちの努力が報われることはないのですが、この時は葛の長さに喜んでテンションマックスでした。
さてさて、隣の画像は自然薯です。
自然薯は葛とは違い毎年別の根にデンプンを蓄えます。しかもツルは細く、風に吹かれただけで切れてしまうため、秋につるをたどって根元に印をつけておく必要があります。私たちは藤本さんが事前に印をつけてくれていた場所で自然薯を掘らせていただきました。葛は大きいし固いので力いっぱい掘り進められますが、自然薯はできるだけおれないように周りの土をどかしてから慎重に優しく掘り出します。なんとなんと、こんなに大きくて長い自然薯を掘り出すことができました。

さて翌日。掘り出した葛の根をざっと水で洗って泥を落としたら、のこぎりで15cmほどの長さに切り分けます。そして餅つき機の要領で杵で叩き潰していきます。昔は平たく硬い石の上で叩き潰していたそうです。天極堂では粉砕機という機会を使うのですが、葛の根は繊維質で固く、なかなかに体力のいる作業です。
ここでしっかり繊維をほぐしておき、今度は水をはったたらいの中でもみ洗い。繊維の間に絡まっている澱粉を水の中に溶かし出していきます。

しっかりでんぷんをもみ出したら、布でこし、しっかりと根に絡まったでんぷんを取り出します。

まっ茶色の液体。この中にデンプンが入っているわけです。
私たちはこの澱粉乳を瓶に入れていただいました。
家で静置し、沈殿したら上水を捨ててきれいな水を入れてまた撹拌して沈殿させる。撹拌→沈殿→水の入れ替えを何度か繰り返すと、最後に白い澱粉が残ります。
でも、私たちはほとんど澱粉の入っていない葛の根を掘ってしまったので、実はこの瓶に入れたものは、2週間前に掘った葛の根を少し分けていただいたもの。
そしてこのバケツの中の白いものが2週間前に作った葛粉です。
2週間前に葛根を掘ってくださった皆様には感謝してもしきれません。
同時に、来年こそは上質の葛の根を掘るぞー!っとリベンジを誓う私です。

葛の根と同時進行で掘り進めていた自然薯ですが、大きな自然薯が2本も取れたので、翌日の朝食にみんなでいただきました。自然薯は泥を落としたら皮ごとすりおろしていきます。お醤油をかけて、今回は土鍋で炊いた赤米と一緒にいただきました。

宇陀松山観光

本来なら葛根を掘って、晒したらイベント終了の予定でしたが、藤本さんのご厚意で宇陀松山地区をご紹介いただきました。

宇陀松山地地区は浄化集落として誕生し、豊臣家配下の大名によって整備され、織田家松山藩の治世を経て幕府領になりますが、伊勢と大阪の中継地点でもあることから豪商が多く、商家町として繁栄しました。
また、卑弥呼の時代に薬狩りが行われたことでも知られていますが、薬との縁が深く、江戸後期には50件を超える薬問屋がありました。
薬の館は宇陀に来たなら必ず訪れて欲しい場所。日本最古で最大の銅板葺唐破風附看板は素晴らしいし、貴重な看板や懐かしの商品などの資料の展示が所狭しと並んでいます。
また、城下町だからこそ直角に曲がる道だとか、格子戸にも様々な種類があるとか、畳屋さんの話、菜種油の話、宇陀和紙の話などなど藤本さんのお話は尽きることがありません。
また街並みだけではなく、神楽岡神社の狛犬も見に行きました。江戸末、孝明天皇が日本中の石工に石で笛を作って鳴らしてみよ とのお達しを出し、笛が鳴ったのは丹波の佐吉だけだったので日本一の石工と言われた!佐吉が掘った狛犬があります。その真下の法正寺さんの境内ににも佐吉の掘った北向地蔵尊があって、光背は透かし彫り、右足の親指が立っているということなど、ガイドをしてくれないと気づかないようなところまで教えてもらえるので、本当に目で見て、時に触って、宇陀(日本)の素晴らしさを満喫できました。
本当はたくさん、100枚以上の写真を撮ったのですが、やはりここは実際に行って、見て、藤本さんのお話を聞いてもらいたいという思いもあり、出し惜しみをしてみました。ぜひ宇陀へお越しください。そしてその際にはゲストハウス奈の音に宿泊し、藤本さんにガイドをしてもらえたらと思います。
奈の音のツアーは必見ですよ!→奈の音Facebook

以上が山での葛根掘りツアーでした。
奈の音さんはもちろんですが、三本松キッチンさん、カフェkuboさんのご協力で美味しいご飯をいただけました。
また、藤本さんのご協力がなければ開催できませんでした。本当にありがとうございました。
また来年、よろしくお願いします。
そして今回参加されなかったみなさん、来年はぜひ一緒に、今度こそデンプンのたっぷり詰まった葛の根を掘りましょうね。

天極堂の葛ソムリエは、「吉野本葛」の良さをより多くの人に知ってもらおうと2012年に始めました。発足当時は天極堂社員の人材育成を目的とし、吉野本葛の歴史、製法、調理法等の知識を習得してきました。2015年度からは葛に興味のある方であればどなたでも受講していただけるようになり、吉野本葛に関する知識の他、歴史から見た葛、植物としての葛、薬としての葛、食べ物としての葛と、必要な知識の範囲も広がりました。葛ソムリエはあらゆる角度から葛について学んだ葛のエキスパート(伝道師)です。
さあ、あなたも「葛ソムリエ」になって私たちと一緒に葛の良さを広めていきましょう。