葛の話シリーズ第二話

 

葛と健康(二)

 

葛根湯

 

 

暮れも押し迫った十三日、江戸の町屋は煤払いで忙しい。湯屋を舞台に裸で捕物劇を演じてみせた加田三七、とうとう風邪で寝込んでしまった。妻女のお民はちょっぴり嫌味を言いながらも、甲斐甲斐しく葛根湯を煎じている。村上元三さんの「八丁堀同心 加田三七 師走の湯」は一件落着の場面に葛根湯を配して、江戸情緒を堪能させてくれる。

 

近頃は、葛根湯エキスと新薬とを配合した風邪薬が出まわっており、そのお世話になる人は以外に多い。本来、葛根湯は主薬の葛根の他に、麻黄、大棗、桂皮、芍薬、甘草、乾生姜の六種の生薬を調合した煎じ薬である。行平(ゆきひら、漢方薬を煎じる陶製の平鍋)でこれを煎じていると、独特の香りに引き寄せられてお裾分をねだる者がやって来ることもあったと言う。今では葛根湯と言えば風邪薬にきまったものと思われているが、お腹をこわしたときにも服用してもよい。

 

葛根の薬効成分はイソフラボン類で、特にプエラリン、ダイズインの含量が高い。イソフラボンは血中のコレステロールの低下に役立ち、体内カルシウムのコントロールを助ける。だから、骨粗鬆症や更年期障害などの成人病に有効だそうだ。こんなことから新規用途が開発されて、葛が大いに注目される日が来ることを期待している。

 

神戸大学名誉教授 津川兵衛