奈良県御所市。金剛山や葛城山など、葛城山脈の山々を擁するこの土地では、豊かな自然と葛城山麓の傾斜、潤沢な湧き水を活かした「つくね芋」の栽培が古くより行なわれている。
つくね芋には複数の呼称があり、「御所芋」や「大和芋」といった土地の名前に由来するものから、「丸芋」のようにその独特な形状をそのまま名前にしたものなど、地方によってその呼び方は様々だ。
今回はそんなつくね芋を長年にわたって栽培し、天極堂へ卸してくださっている西川さんご夫婦に、つくね芋の栽培についてお話を伺った。
つくね芋について
つくね芋とは、ヤマノイモ科に属する山芋の一種。「山芋」という総称に含まれる芋の種類は多種多様だが、関西においてつくね芋はポピュラーな山芋のうちの一つである。
粘りが非常に強く、加熱するとふっくら柔らかくなる性質をもち、高級食材として珍重されてきた。軽羹や饅頭などの和菓子の材料に用いられたり、うどんや蕎麦などの麺類にかけて食される事が多い。
消化促進・代謝の活発化などの作用をもつジアスターゼやムチンといった成分を含んでいることから、健康志向の高まりに合わせて需要が伸びたと言う。
つくね芋の栽培

西川さんのつくね芋畑。ずらっと並ぶ支柱に芋の蔓を這わせることで畦の間の溝を綺麗に保ち、土中の芋の腐敗を防ぐ

 

山間にある櫛羅の冬の寒さは厳しく、取材に伺った日も殴りつけるような強風と吹雪だったが、西川さんご夫婦は快く取材に応じてくださった。
西川さんご夫婦は、50年ほど前からつくね芋の栽培に携わっている大ベテラン。収穫量は年によって変動するが、一番多い時では1町2反ほどの面積でコンテナ700杯分ほどのつくね芋を作っていた、との事。これは重さにして約14tほどの量があるそうだ。

では簡単にたくさん作れるものなのかというと、決してそうではない。つくね芋の栽培はとても難しく、わずかな農家しかその栽培方法を継承できなかったらしい。つくね芋の栽培にあたって気を配っている事、具体的に行なっていることについて西川さんにお聞きしたが、なるほどその難しさがよくわかった。気を配らなければならないところが多すぎるのだ。

 

つくね芋の収穫には、大工道具の鑿(ノミ)を大きくしたような道具を用いる。芋を周りの土ごと大きく掘り起こし、つくね芋に傷がつかないよう手で土をわけて収穫する。

 

つくね芋は土質を選び、乾燥を嫌う。まずこの時点で栽培できる土地がかなり限られてくる。では湿度が高ければいいのかというとそうでもなく、むしろ雨水を溜め込みやすい土質だと種芋の根に悪い影響が出る。そのため、水はけが良い乾いた土でないとつくね芋の栽培は難しい。種芋を植えるタイミングも雨の有無によってかなり左右される。種芋を植えるのは基本的に3月後半から4月末にかけて、温暖な気候が安定し始めてからだが、雨が降って土中で温くなってしまうと土が乾くまで植えられない。種芋を植える時期に丁度春の雨が降ってしまうと、十分に乾いていない畑は使えなくなってしまう。雨が多い年には種芋植えが5月頃までずれ込むこともあるという。
他にも気温の変動や日光の当たり具合に加え風通し、肥料を与えたりタネを切ったりするタイミング、水の管理などが芋の出来栄えに影響するそうだが、西川さんは「一番大切なのは土づくり」だと語る。先ほど伺ったように水はけが良くて雨が降ってもよく乾く土であることが絶対条件である上、土づくりにトラクターを何回使うかによっても畑の良し悪しが大きく変わるそうで、「今年はあと1,2回トラクター入れなあかんかったね」と反省していらっしゃった。
わからない、だからこそ楽しい

西川さんご夫婦。寒い中一時間近く取材に応じてくださった

 

人の力ではどうにもならない要素に大きく左右されるつくね芋づくり。今年はおよそ一割半の芋が虫害に遭い、出荷できない状態になってしまった。天候や気温、虫による被害など不確定要素が多いつくね芋の栽培におけるもう一つの難点が、生長の様子を直接確認できない事である。
「土の中で育つもんやから、掘ってみんとどうなってるかわからんしねぇ」と言う西川さん。つくね芋は土中で育つ。最初の発芽の様子で芋の良し悪しはなんとなくわかるそうだが、芋そのものの状態は収穫の段階まで視認できない。
西川さんは畑にこまめに足を運び、例年の様子と比較して変化があれば臨機応変に対応しているという。ただただ淡々と作業をするのではなく、如何に頭を使うかが大事だそうだ。
手をかけたからといって良い質のものが出来るとは限らない、育てている間はどう育っているのかすらも確認できない。掘ってみるまで何もわからないというのはとてももどかしく不安な事に思える。
しかし西川さんは、掘ってみなければどうなっているのか分からない事を難しく感じると同時に、楽しいとも感じていると仰っていた。
掘ってみないとどうなっているのかわからない、そんな難しさすらも楽しむ。ベテランのベテランたる所以を垣間見たような気がした。
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