春の和菓子の代表格・桜餅に欠かせない“桜葉の塩漬け”。
当店では桜の生葉と桜葉の塩漬けの両方を取り扱っている(「桜の生葉」のみ期間限定販売)が、独特の芳香とべっこう色の照りは、塩漬けされた桜葉ならではの特徴だ。
では、桜葉の塩漬けとはいったいどのように作られるものなのだろうか?
今回取材したのは、桜葉の塩漬けの製造が盛んに行なわれている静岡県。
丁度桜葉の収穫シーズンで、青々と茂る桜葉の畑を見る事が出来た。
桜葉の塩漬けについて
桜葉の塩漬けには専ら「オオシマザクラ」の葉が用いられる。この畑で栽培されているのもオオシマザクラだ。
植えられている桜は元々山に自生していたもので、最初期は野生の桜の木から採取した葉を塩漬けにしていたそうだ。
当時、野生の桜葉の塩漬けは伊豆半島で盛んに行なわれていた薪炭生産の副産物であったが、戦後の燃料革命によって自生の桜葉の収穫が困難となり、山から畑への桜の移植・畑地栽培が始まる事となった。
桜葉の栽培

撮影は5月下旬。一面に茂る緑の葉が美しい

 

この畑には植樹から60年ほど経つ株もあり、かなり昔からこの地で桜の栽培が行なわれてきたことを物語っている。
とはいっても、やはり樹齢の長いものより若い木の方が良い葉が採れるそうだ。
桜の木も他の生物と同じく、加齢に伴って弱っていく。一番良い状態の葉が採れるのは大体樹齢5年ほどのもの。
赤い葉をつけている木もちらほら見受けられたが、これは老化や天候の影響によるものではなく、緑の葉をつけているものとは品種が異なる桜らしい。

 

 

山から持ってきた時点では成長の具合も葉の大きさもバラバラだが、枝を切ってやればそこから新芽が生え、葉の大きさがある程度揃う。天然のものとはいえある程度サイズを揃えて販売する必要があるため、12~1月頃には一旦枝を切り、『幹切り(カンギリ)』と呼ばれる状態にする。カンギリを行なうと枝が分かれるのだが、枝が多い木の葉は小さく、逆に枝が少ない木の桜葉は大きく成長する。どこまで枝を落とすかは個人個人のセンスによって様々だそうだ。葉の大きさは生えるタイミングによっても多少の差があり、早い時期に生える葉は他の時期のものに比べるとサイズが大きく、他と区別して『もとっぱ』と呼ばれている。昔は葉の大きさにこだわる顧客は少なかったようだが、今は桜葉の大きさにも流行りがあるらしい(最近は小さめの葉が流行っている)。好まれる葉の大きさには地域差もあるようで、関東では大きめの葉、関西では小さめの葉の需要が高い。関東・関西ではそもそも桜葉の塩漬けの主な使用用途である“桜餅”の種類も異なるため、その違いも影響しているのだろう。関東・関西それぞれの桜餅については、レシピを公開しているので是非ご自身の手で作っていただきたい。

幹切りを終えて2月になると、新芽が出始める。
ここからはひたすら肥料の散布と木の消毒を交互に行なう。葉のコンディションは肥料をこまめに与えていれば概ね一定のラインを保つことが可能だ。消毒は主にアブラムシなどの虫による被害を防ぐためのもの。虫の他に、野生の鹿も大島桜の天敵として挙げる事が出来る。奈良公園の桜にも鹿対策として幹をカバーで保護されているものがあるが、この畑では鹿よけネットを張り巡らせている。鹿に食われるとそこから木が腐っていくそうだ。
ちなみに、世間一般の桜と同じく、この大島桜も3月後半になると白い花を咲かせる。しかし、あくまで葉を収穫するために栽培している木に関しては、養分が余分に消費されるのを防ぐために早い段階で花を切ってしまう。
こういった作業を繰り返しながら春を待ち、5月に入った頃から葉の収穫、というのが桜葉栽培の流れだ。

 


塩漬け用の樽に敷き詰められた桜葉。

 

このように長期にわたる栽培の末ようやく収穫される桜葉だが、その多くはここからさらに塩漬けの工程に移る。
昔は大きい木樽に梯子をかけ、人が樽の中に入って塩漬け作業を行なっていたらしいが、今は小さい樽にみっちりと桜葉を詰めて塩漬けにしている。
塩漬けした桜葉特有の芳香は「クマリン」という成分によるもので、塩蔵することによって初めてクマリンが生成・香りを放つ。街中に生えている桜の葉から桜餅の葉と同じ香りがしないのは、これが原因である。
桜葉を入れた樽はこの後山へ運ばれ、何度か塩水を継ぎ足しながら9月頃に漬けあがりとなる。桜葉の塩漬けは熱が加わる事で香りがたつようになるため、夏を越させる事が重要なのだそうだ。漬けあがった桜葉は美しいべっこう色に変化する。肥料の有無やその他栽培方法の違いによって葉の艶には差が出る。基本的には肥料をやった方が艶の良い塩漬けになるらしい。
こうして塩漬けされた桜葉は、「桜葉の塩漬け」としてそのまま販売される他、乾燥・粉砕を経て粉末になり、紅茶などに加工される。
商品案内

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